ゴミ屋敷のウソとホント

Rーガン政権の経済政策の失敗を国民に印象づけ、次回88年の大統領選挙で盟友Bシュ副大統領の勝利を難しくする可能性がある。 このジレンマから逃れる最善の方法は日本と欧州をうまく利用することである。
すなわち、日欧と協調して為替の調整を行い、米国製品の輸出競争力を回復させること、日欧に内需拡大策を採らせることである。 この結果、価格効果、所得効果の両面から米国は輸出を増大することが可能となり、みずからの経済調整に伴う痛みを最小限に抑えることができる。
このBーカー戦略を具体化したものがG5プラザ合意だった。 プラザ合意の重要なポイントは次の2点に集約される。
1つはG5間で「相互にサーベイランス(監視)を行うことで合意した」点である。 額面では「相互に」となっているが、この合意をたてに米国は一方的に他のG5諸国の経済政策に干渉する権利を得た。
第2は「為替レートはファンダメンタルズを反映すべきで、他の通貨がドルに対して上昇することが望ましい」とした点である。 「有用であれば促進するように、より緊密に協力する用意がある」と、為替市場でのドル売り協調介入を実施する可能性を示唆した。

G5では、「当時の為替相場はちょうど240円であったが、これに対してさしあたり10%程度の(ドル)引き下げを目処にしてやってみようではないかということであった」とS田日銀総裁は回顧しているが、この後、総裁みずからが陣頭指揮をとるドル売り介入により2週間後には210円近くまで円高.ドル安が進んだのであった。 その後、ドルが一時値を戻す場面もあったが、85年10月下旬にたまたま日銀が短期金利の高め誘導に踏み切ったことが決め手となり、ドル戻りの芽は完全に断たれた格好となった。
明けて86年1月、ロンドンで行われたG5の終了後、T下蔵相の「日本は190円でもやっていける」という円高容認発言が飛び出し、円はあっという間に200円を割り込むなど、一段の円高にはずみがついてしまった。 この円高に呼応して同年1月に日銀は公定歩合を0.5%引き下げて4.5%としたが、振り返ると、バブルを生み出す超金融緩和に向かう最初のステップであった。
日銀の単独利下げにもかかわらず、円高の勢いは衰えず、2月中旬には180円を割り込むに至った。 さすがにここまでくると日本の産業界から悲鳴が聞こえてくるようになり、3月中旬に日銀はドル買い.円売りの逆介入に踏み切った。
プラザ合意から6ヵ月ぶりの政策転換である。 この逆介入に米国は協力しなかった。
Bーカー長官はプラザ合意の最終目標である世界経済の成長促進、貿易不均衡是正実現のためにプラザ合意で約束した内需拡大策を日本に迫っていたが、日本が満足のいく政策を打ち出していない以上は、ドル下落を止める段階ではないと判断していたのである。 「内需拡大か、さもなければドル安か」という2者択一を迫RノーがBーカー長官のやり口だった。
このため、為替市場は日銀の介入が単独である限り介入効果は限定されると足元を見ていたのである。 この年6月に先進国首脳会議が東京で開催され、日本サイドは円高阻止のために米国の協力を取り付けようと動いたが、一蹴されたばかりか、Bーカー長官は日本に内需拡大を強要するため多角的監視(マルチラテラルーサーベイランス)というアイデアを持ち出してきた。
7力国の蔵相が年1回集まって経済指標をベースに互いに経済政策に注文を付け合うというもので、プラザ会議合意事項の1つである「相互のサーベイランス」の具体化である。 Bーカー長官にしてみれば、この多角的監視システムにより経済成長が不十分な国に対して公式に内需拡大を迫ることが可能と考えたのである。
この多角的監視は米国の希望通りサミット宣言に盛り込まれることになり、また日本では7月に衆3同日選挙が予定されていたこともあって、Bーカー長官は「ドルは円に対して十分に下落した」とドル高是正の終息宣言を行い、プラザ合意以降ほぼ一本調子で下がり続けてきたドルは一旦、底を打つことになるのである。 1986年7月の衆3同日選挙でJ民党が大勝し、N曽根首相の続投が決まったが、大蔵大臣には円高問題でN曽根批判の急先鋒だったM沢総務会長が就任することになった。
いわば円高対策の切り札である。 そこで、9月にサンフランシスコで日米蔵相会談が急遠セットされることになった。

M沢蔵相の狙いは米国から為替安定で協力を取り付けること、一方、Bーカー長官の狙いはプラザ合意のあと進展していない内需拡大を日本に確約させることである。 サンフランシスコ会談の合意事項は1ヵ月以上も遅れて公表されることになるが、日本は3兆6000億円の景気対策を打つこと、米国はドル.円相場は概ね現在のファンダメンタルズに合致するとして為替安定を約束した形となっている。
M沢蔵相はこのサンフランシスコ合意を受けて、これ以上の円高はないと円高終息宣言を行ったが、筆者が当時ワシントンで面談した米通貨当局者は日本の内需拡大策が本物か否か見極める必要があり、「M沢蔵相の円高終了宣言は適切とは言えない」と述べていた。 実際、米政府の懸念通り、3.6兆円の中身は予算措置を伴う真水が極端に少ない内容で米国の対日不信は一層膨らむことになる。
Bーカー長官を再びドルトークダウンに向かわせるきっかけとなったのは12月に発表になった192億ドルという史上最大の米貿易赤字(11月分)であった。 受けて、年が明けると米議会で保護主義法案が目白押しとなり、ついにBーカー長官は「ドル下落は秩序あるもので、インフレを招くとは思わない」とドル安容認発言に再び踏み切った。
この結果、為替市場では円高が加速し1ドル=150円を割ることになる。 この間、日銀は必死に円高阻止の介入を実施したが、米国がドル安を容認している以上は、日銀単独での介入の効果は所詮限られる。
そこで、切羽詰まったM沢蔵相はみずからワシントンに乗り込んでBーカー長官との直談判に臨むことになる。 この87年1月の第2回M沢.Bーカー会談は結果的に事前の予想を上回る意義深い会談となった。
円高を止めたいM沢蔵相、内需拡大を飲ませたいBーカー長官が互いに相手の要求を受け入れるばかりでなく、他のG7諸国を説得してプラザ合意をさらに一歩進めたマクロ政策協調を行うことで合意したのである。 そこで翌2月にパリO蔵省(当時ルーブル宮の一角を占めていた)でG7が開かれることになる。
ルーブル合意のポイントは第1に貿易不均衡是正で各国別に具体的行動計画を記したことである。 第2に為替を現状で安定させることで合意しただけでなく、声明にはなかったものの一種の目標相場圏(ターゲット.ゾーン)を設けることでも合意を見た。

参考相場圏(レファレンスーレンジ)と呼ばれるものだが、為替レートが中心から上下2.5%を超えると介入が期待され、5%を超えると介入義務があるとも言われたが、筆者が日米独の通貨当局者にレファレンスーレンジにつき問い合わせてみたところ、ドイツは「固定的なレンジなど設定されていない」、日本は「レンジは状況次第で動く」、米国は「為替の安定とは固定という意味ではなく、長期的に企業の投資計画を阻害しない程度の為替の変動を安定という」と答えており、介入は義務的という印象はなかった。

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